2006年10月16日

北朝鮮の核実験を、ドイツのマスコミはどう見ているか。

ドイツマスコミスキャン〜北朝鮮の核実験 2006/10/16
 ベルリン――シュタインマイヤー外相は9日、北朝鮮が核実験を実施したと発表したことに対し、「北朝鮮政府は自ら孤立を深めるという誤った道を進んでいる」と述べ、核兵器やミサイルの開発計画を即刻中止するように要求した。同外相はまた、核実験は地域の平和と安全を脅かすだけにとどまらないとして、国連安全保障理事会は国連憲章にもとづき、断固たる措置をとる必要があるとの見方も示した。

《解説》

 今年7月に行われたミサイル発射実験のときはドイツのマスコミの反応はそれほどでもなかったが、今回はさすがに核が絡むだけあって扱いが大きい。イランの核問題――ドイツはこれに積極的に関与している――で協議が進行中ということもあり、問題の深刻さがそれだけテポドンよりも身近に感じられたのであろう。そんなマスコミの反応をいくつか紹介したい。

 まず『南ドイツ新聞』だが、同紙は『朝鮮の爆弾』と題する論評で北朝鮮について、

「北朝鮮は無力な国である。怪しげな崇拝にとらわれ、冷酷な独裁者に抑圧され、同盟国に見捨てられ、政治的社会的な怪物へと成り果てている。従来の枠組みではもはや説明できないし、ましてや理解することなど不可能である」

 と評している。そして「その内部が不透明かつ不可解であるため、この独裁国家が自殺行為的に核兵器を先制使用するという危険がないとは言い切れない」との憂慮を示した上で、この事態を解決するには「ワシントンと北京がこの地域における覇権争いを中止し、爆弾をこよなく愛する金氏を最終的に隔離する」ことが必要だとの見方だ。

 『ヴェルト』は「最も恐ろしい兵器が最も汚れた手に――北朝鮮の核実験は世界を変えてしまうだろう。おそらく後戻りはできない」との書き出しで論評『核の無秩序状態』の筆を起こしている。そして6カ国協議については

 「幻想であり、弱々しく、単に宥和的なものであったことが明らかだ。北朝鮮の後援者であり、協議の仲介者でもある中国は面目を失った。12年にわたって北朝鮮をなだめようとしてきた韓国と日本はペテンにかけられていた。アメリカとロシアは何もできなかった」

 と述べ、まったく意味がなかったとの見解だ。そして「中国の戦略家たちが長い間阻止しようとしてきたことが起こりつつある。日本がアメリカとの関係を一層強め、核兵器を開発することだ。韓国にしても状況は似たようなものだろう」と分析し、核の均衡が破れ、無秩序状態が今後おとずれるのではないかとしている。

 『フランクフルター・アルゲマイネ』は北朝鮮の思惑を次のように分析する。

 「おそらく金正日はイランの核問題が続いているところへ朝鮮半島の危機を加えればアメリカを脅迫しやすくなると単純に計算したのだろう。たしかにアメリカは現在やっかいな状況にある。イラク、イラン、中東で外交資源をすべて使い果たしていし、それに選挙も近づいている」

 つまりブッシュ政権が身動きを取りづらい状態にあると見て、北朝鮮はそこに付け込んだというわけだ。このように分析した上でこの論評(『危険な計算』)はさらにこう続ける。

 「しかし金正日のこの計算には危険も付随する。アメリカを挑発するだけでなく、中国にも外交上の敗北をもたらすからだ。同盟国に道理をわきまえさせることすらできない以上、北京が何年にもわたって強固なものにしてきた、アジアを安定化させるという役割は信用を失うだろう」

 同紙はまた別の論評(『だまされた中国』)で「北朝鮮の核実験で北京とピョンヤンの特別な関係は終わった」として、今後は中国の北朝鮮に対する寛大な態度が変わってくるとの見方を示している。そして今後の東アジア安全保障体制については

 「新たな地域的軍備競争が始まるかもしれない。特に日本では軍備の拡大と場合によっては核武装を求める勢力が活気づくだろう。良好な経済関係にも関わらず、依然として日本を不倶戴天の敵・ライバルとみなす中国にとってこれは脅威である。またそうした日本と台湾が緊密に結びつくことも北京にとっては恐ろしいことだろう」

 と分析する。

 『フランクフルター・ルントシャウ』の論評(『金正日の挑発』)は、まず「北朝鮮がすでに実用可能な核ミサイルをもっているわけではない」という点を強調する。そして

 「核実験に関するかぎり多国間協議は明らかに失敗している。国際社会は北朝鮮の挑発に対しては複線的に対応しなければならない。すなわち、最大限の圧力と政治的譲歩だ。特に北朝鮮をこれまで最も支援してきた国々――中国と韓国――は圧力をかけなければならない。この2カ国が現在もなお北朝鮮に対して経済的影響を及ぼしうるからである。しかし本当の解決にはアメリカが必要だろう」

 と述べ、北朝鮮の要求する直接協議にアメリカが――政治的譲歩になるが――応じることで解決への道のりが見えてくるとの意見だ。

 以上はすべてドイツ全域で読める全国紙の論評だが、この問題については地方紙も言及している。たとえば『テューリンガー・アルゲマイネ』(エルフルト)は

 「本当に存在するのである。ならず者国家というものは。こうしたプロパガンダじみた言葉は本当は使いたくない。しかしアメリカ大統領の言う通りなのであれば、この言葉もまた正しいということになる。それに、忍耐と説得によって妄想症の独裁者をも治癒することができるとする、みんなが大好きな幻想も、この核実験で弱々しいものになってしまった」(『後見人』)

 と評している。同じく地方紙の『マンハイマー・モルゲン』(マンハイム)は「こうした危機が起こったことに対して、アメリカを非難できるのだろうか」と述べ、北朝鮮内部の問題を軽視する姿勢が一部にあることを批判し、

 「核兵器の拡散は長期的にはほとんど阻止できない。あらゆる理性に反し、挑発と対決を繰り返す国家に対しては外交は無力なのである。金正日は核実験を『前進のための跳躍』と自賛しているが、苦しめられている北朝鮮国民にとってこれは『奈落の底への跳躍』にほかならないのだ」(『奈落の底へ』)

 としている。

 最後に公共放送ARDのニュースサイトの論評を紹介しよう。『ワシントンのひそかな喜び』と題する、同放送局東京支局で活動するマルティン・フリッツ氏が書いた論評である。

 「現在ワシントンはひそかな喜びに満ちている。この核実験で独裁者は核のポーカーで最後の切り札を出してしまった――つまりこれでゲームは終了だ。たしかに制裁でこの政権を終わらせることはできないだろう。政権転覆とそれに伴う難民の流入を恐れる中国韓国がさらに支援を続けるはずだからである。しかし、金正日のこれまで行ってきた生き残り戦略はその目的を達せられなかった。アメリカはこの荒廃した矮小国家にもはや何の危険も認めないだろう」

 たしかにその通りで、このあと北朝鮮がどういう動きに出るのか、ちょっと想像しにくいところではある。核以上の「ならず者」的威嚇手段は考えにくいからだ。あるとしたらミサイルの弾頭として核を取り付けることだが、これは技術的に当分無理だという話である。

 また北朝鮮の体制が急に和平方向へ転換するとも考えにくい。強大な軍部を抱えていてはそれもできないだろう。そんなことをしたら自分の首が危なくなる。

 フリッツ氏は論評をこう結んでいる。

 「おそらく北朝鮮の独裁者は、アメリカの制裁にもかかわらず、さらに持ちこたえようとがんばるだろう――次のアメリカ大統領がもう少し融通の利く人物であることを祈りながら」

 もちろんこれは皮肉である。

 なお、北朝鮮の「ならず者」的行動が日本に対してどれほどの脅威となっているのかについては、どの論評の中でもほとんど触れられていない。これはドイツから地理的に大きく離れているため、それが実感しにくいという事情もあるのだろうが、それ以上に日本が様々な問題(拉致問題、不審船問題等)を国際社会に訴える努力をあまりしてこなかったことが大きいように思う。

 日中韓のいわゆる「歴史認識問題」については、ドイツのマスコミでもときおり取り上げられることがある。しかもその場合中心になるのはたいてい中国・韓国側の主張である。これには、その主張が正しいかどうかという以前に、日本の声が小さすぎるのでこのような報道になっているという側面が否定できない。

 9日の日韓首脳会談で盧武鉉大統領は、北朝鮮の核実験に対する共同の抗議声明を提案した安倍首相の話をさえぎり、まるで核実験などなかったかのように、「歴史認識問題」を約40分にわたって語り続けたという。このしつこさを日本も少しは見習うべきかもしれない――ただし相手の話をさえぎらない程度の礼儀をもって。

《参考》

"Irrweg in die Selbstisolation"(自ら孤立を深める誤った道)
Koreas Bombe(朝鮮の爆弾)
Kommentar: Nukleare Anarchie(論評:核の無秩序状態)
Riskantes Kalkuel(危険な計算)
Duepiertes China(だまされた中国)
Kims Provokation(金正日の挑発)
Paten(後見人)
In den Abgrund(奈落の底へ)
Klammheimliche Freude in Washington(ワシントンのひそかな喜び)

(竹森健夫)

http://www.janjan.jp/world/0610/0610152769/1.php

http://bbs.enjoykorea.jp/tbbs/read.php?board_id=thistory&nid=1772403
posted by るる at 18:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 国際ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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